「試し読み②」本書の一部を公開します。

榊巻です。

試し読みの第2弾です。

年内に1度、本書の1部を公開しましたが、今回もちょっとだけ公開します。

これからどう進んでいくのか、興味を持ってもらえるんじゃないでしょうか。

 

その前に、前回の試し読みも掲載します。

前回は、 「ファシリテーションって何?」というテーマで掲載しました。

その結果を、父に報告するシーンが今回の試し読み内容です。

ctp-book2.hatenablog.com

 

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(P47 第二章 「確認するファシリテーションを始める」より)

 振り返り
 その日の夜。食後のビールを楽しむ父に、成果報告をする葵がいた。
「悔しいけど、意外と効果があったみたい。お父さん、やるね」
「そうかそうか。どんな効果があったかな?」。ビールがうまいのか、葵の話がうれしいのか、
父はやたらとニコニコしながら例のノートを取り出す。
「課長と、主任や先輩の間で、やるべきことの理解が微妙にズレてたの。最後に私が決まったこと、やるべきことを確認したら、認識が合っていないことが発覚して、少し議論になったくらい。確認しなかったら、後から『なんでやってないんだ?』『俺の仕事だと思ってませんでした』って絶対にモメていたと思うわ」
「いい気づきだね。他には?」
「決まったことって、会議の最初や途中に散らばっているんだけど、時間がたつと忘れちゃうのよね。最後にもう一度確認することで抜けがなくなったのかな」
「なるほどね。こういう感じかな?」と言いながら、父は先日のノートに書き加える。

 

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「そうなの。確認するだけなのにね。それにスッキリするというか、〝決まった感じ〟がグッと出るわ。『確認していいですか』って、会議を変える魔法の言葉みたい」
「うんうん。やってよかっただろ? 確認するのに抵抗はあったかい?」。父はペンを置いて再びビールのグラスを持ち上げた。その瞬間、父の手からグラスが逃げ出した。「ああぁ! しまった…母さ〜ん!」

テーブルはビールでびしょびしょだ。
「はいはい」母が何事もなかったようにタオルでテーブルを拭いているのを見て、葵はため息を付いた。父は仕事関連では出来過ぎ人間なのだが、日常生活は全く逆だった。ビールやコーヒーはしょっちゅうこぼすし、財布やカギは年中なくす。家族との会話はすぐに忘れ、同じことを何度も聞いたり、予定を忘れてしまったり…。そのたびに母がフォローするという構図だ。

「はい、代わりのビールね。ノートにこぼさないようにしてよね?」。長年のことなので母の対応も慣れたものだ。娘から見ても、出来た母だと思う。母がいなかったら、この人どうなっちゃうんだろう?
「お父さん、いい加減、こぼさずに飲めないの? 子供みたい」
「仕方ないだろ、これでも気を付けているんだよ。そんなことより他には?」
「もう…。後はね、最初言い出すのは本当に、本当に! 勇気が必要だった。しかも、幸田さんに文句言われて…。片澤さんが助けてくれなかったら気絶していたと思う。寿命が縮む思いだったのよ。でも、言い出しちゃえば案外平気だったかも。だって意見を言ったわけじゃなくて、確認しただけなんだもん」
「うん。若手が会議で意見したり、自分の考えを話したりするのは結構ハードルが高いよな。『経験もないのに』とか『ろくに現場も知らないのに』と言われると言い返せないからね。でも、『確認する』という行為なら、グッとハードルが下がるんだ」
「確かにそうだと思う。私でも発言できたんだから」。葵は思い出すように宙を見上げた。
「たかが確認、されど確認だ。確認しただけで、決まったことが皆に分かって、会議を促進することができただろう? これがファシリテーションなんだ。必ずしも司会者として場を仕切る必要はないんだよ。父さんは〝隠れファシリテーター〟って呼んでる」
「やっぱり私が知っているファシリテーションとは少し違うのね」。〝隠れファシリテーター〟なんていう言葉を聞いたのは初めてだった。ファシリテーターは前に立って目立ってなんぼだと思っていたし、そう教わった記憶がある。
「日本には昔から、年長者が人を集めたり、場を仕切ったりする風習があった。そして年長者を敬い尊重する文化もね。多くの会社では同じような雰囲気が残っているんだ。だから若手が場を仕切ったり意見を言ったりすることに抵抗がある。でもこのやり方ならだいぶ食い込みやすいだろう?」。父は一呼吸間を置くと、もう一つアドバイスがある、と言った。
「決まったことと、やるべきことを確認したら、会議の後に参加者全員に確認の結果をメールするといい。備忘録になるし、やるべきことをプッシュする効果もある。気の利く女だと思われること請け合いだぞ」
 相変わらず父の話には有無を言わせない迫力がある。ビールさえこぼさなければ、もっと説得力があるのだが…。普段なら拒否するところだが、ファシリテーションの可能性をほんの少しだけ感じていた葵は、黙ってうなずいた。

 

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いかがでしたか?

すでに本書を読破してくれている方も多いかもしれませんが、

葵はこれからいろんなスキルを身につけ、少しずつ自分の部署の会議を良くしていきます。