「試し読み」 本文を部分的に公開します

こんにちは、榊巻です。

「世界で一番やさしい会議の教科書」ってどんな本だろう?

ちょっと読んでみたいかも!!そんな興味を持ってくれた人に少しですが、中身をお見せします。

 

今回は、主人公の葵がファシリテーションの存在を知る一場面を掲載してみました。

本の雰囲気は伝わると思います。読んでみてください。

 

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(P26 第二章 「確認するファシリテーションを始める」より)

ファシリテーション」ってなに?

──「ねぇお母さん、ちょっと聞いてよー」
 金曜日の夜、葵はダイニングテーブルに付くやいなや、会社での出来事を母に話し始めた。

葵は父と母と三人暮らしだ。
「今日の会議すっごい眠くてさ、スカイツリーばっかり見ちゃった」
「あら大変だったわね」。テーブルに夕食を並べながら母が答える。
「先輩は隣で寝てたけどね」
「ふふふ、次回は先輩をちゃんと起こしてあげないとね。でも寝ていてお給料もらえるなんて、いいわねぇ」。母は言葉は柔らかいが、なかなか鋭い切り込みをしてくる。
「うっ! 私は寝てないってば! でも、普段の仕事もつまらないし、初めての会議はもっとつまらなかったなぁ。入社前のイメージと全然違うんだよね。でも大変だからお給料もらえるってわけだし、頑張らないとなぁ」
「ほう、先輩たちの言っていた通りの会議だったわけか?」。リビングで新聞を読んでいた父が会話に入ってきた。
「会議がつまらないなら、楽しくて充実した会議に変えた方がいいんじゃないのか?」


父は正論をサラリと言ってのける。合理主義で良いものは何でも取り入れる性格で、正論をズバズバ言うし、自分でもその通りにやりきる。隙のない出来過ぎ人間だ。業務変革をリードするコンサルタントらしいといえばそれらしいのだが、保守的な葵からすると、父の押しの強い部分は少し苦手だった。昨夜の続きが出たな…と多少うんざりしながらも、テーブルの向かいに座った父の方に向き直って言った。

「でも一流の大企業のやっていることだから、そんなに間違ってないでしょ?」
「そうかな? 父さんはいつも大企業と仕事をしているけど、まともな会議をやれているところなんか見たことないぞ。おっ! 今日は新メニューだね?」。夕食をうれしそうに見ながら、聞きずてならないことをあっさり言う。
「そうなの?」
「うん。そういえば、〝生涯会議時間〟考えてみたか?」
「会議中に考えてみたわ」
「やるな。初内職おめでとう!」
「もう、からかわないでよ!」と言いながら、

葵は会議時間がざっと三万時間にもなること、会社人生の四割を占めること、そしてそれを考えてめまいを覚えたことを話した。

「素晴らしい。それだけの時間、苦行に耐えることになるわけだ」。

父の言葉に、葵は口をとがらせながらも黙ってうなずいた。確かにその通りだった。

「人生における睡眠時間が二〇?三〇%だから、かなりの割合だな。会議が苦行ってことは、毎日悪夢にうなされて寝るようなもんだな。父さんなら絶対にそんな人生はゴメンだ」

「それはちょっと極端な例よ。強引すぎ。でも、確かにもうちょっとイメージに近いといいのになぁ」
「葵がイメージしていた会議はどんなものだったんだい?」
「うーん。そうだなぁ。入社する前のイメージは、ドラマみたいにプロジェクターを使ってビシッとプレゼンする会議とか。あとは、みんなが自由に意見を言い合うんだけど、最後にバシッと『これで行きます! 決定!』みたいに締める会議かな?」
「なるほどね。じゃあ今の会議は何が気に入らないんだい? ちょっと待てよ、ノート取ってくるから」。

コンサルタントの職業病なのか、本気で何かを聞いたり考えたりする時、父は決まっ
てノートに殴り書きをしていた。つまり、本腰を入れた証拠だった。こうなるとおとなしく付き合うしかない。
「今日の定例会はこんな状況だったの…」。葵が会議の様子を伝えると、父はノートに〝定例会議の状況〟と書き、その下に箇条書きを加えた。

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「ははは。典型的なダメ会議だね。こういうのはね、〝ファシリテーション〟する人がいれば劇的に良くなるんだよ」

ファシリテーションって聞いたことあるわ。中立の司会者を置いて、フレームワークとか付箋を使って議論するやつでしょ? 楽しく議論しましょうって感じの。でもペーペーの私がいきなり『フレームワーク使って議論しましょう』なんて言えるわけないじゃない」
「意外と勉強してるな。確かに間違ってはいない。でもちょっと誤解がある」。真剣な表情を作ってから父は続けた。
「ファシリテートって『促進する・容易にする』って意味なんだ。ゴールを達成するための活動を促進するってことだ。会議ファシリテーションって言ったら、『会議を促進する、会議を容易にする』って意味になる。会議は何かを決める場だろ? だから、何かを決めることを促進する・容易にする技術ってことだ。そのためにいろんな工夫をする、それがファシリテーションになるんだ」と説明しながらノートにキーワードを書き込んでいく。
フレームワークを使うのは、ファシリテーション手法の一つに過ぎない。それだけで会議が促進されるとは限らない。何よりプロでも使うのが難しい」
「へー、よく知ってるのね」。葵は父の顔と、ノートを見比べながら感心したように言った。
「父さんはファシリテーション型のコンサルティングをしているんだよ。言ってなかったか? 

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父さんはプロのファシリテーターってわけ。日本ネットワークパートナーズみたいなクライアントの社内で会議をばりばりファシリテートしてるんだぞ」。父はちょっと得意気な顔になった。
「全然知らなかった…。でも私には関係ないわ。私の会社で『ファシリテーションやります』なんて絶対言えないし、そもそも新入りが何言ったって聞いてくれないよ」
「会議を変えたくないのか? どうせなら楽しまないと損だぞ?!毎日悪夢にうなされていていいのか?」
 葵は顔をしかめながら反論した。
「いいのよ。恥ずかしいし、私、父さんみたいに肉食系じゃないもん、いいのよ、今のままで。あの会議の雰囲気を変えるなんて無理よ」。どうやら、父の前向きな考え方は葵には受け継がれなかったらしい。
「大丈夫だって! よし、父さんがファシリテーションのテクニックを教えてやるから、次の会議でそれだけしっかりやってみろ。それで何も変わらなかったら諦めてもいい。何もしないまま諦めるのはダメだ!」。こうなると、父は強引なうえにしつこい。
「えー、本当にイヤなんだけど…」
「父さんはトレーニングの仕事をすることもあるんだが、受講生は何十万円も払って来るんだ。それをタダで教えるんだぞ?」


「別に、頼んでないし…」
「じゃあ、これがうまくいって、もし会議が変わったら、高級レストランのディナーに家族三人で行こう」
「あら、いいじゃない! 葵、頑張ってみたら?」。夕食の支度をしていた母が、いきなり口を出してきた。「この間、外苑前のフレンチの記事を雑誌で見て、行きたいと思っていたのよ」
「お母さん、他人事だと思って…」。口をとがらせて抗議するが、母はすっかりウキウキしている。

「たまには家族で外食したいわあ。葵のお弁当だっていつも作ってあげてるでしょ。いい年なんだし、葵が自分で作ってもいいのよ」

いたた、やぶへびだわ。「うーん…。じゃあ何すればいいの?」。葵は父に向き直って言った──

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この先、葵は少しずつファシリテーションを学んでいきます。

はたして、会社の会議をよくしていくことはできるんでしょうか。